なぜ、自分たちの話を公開するのか
「日本の製品は品質がいい。でも海外に売る方法がわからない。」
私たちが最も多くいただく相談です。そして、これは私たち自身がぶつかった壁でもあります。
才谷屋は、日本の建築金物――忍び返しを、海外へ売るところから始まりました。その過程で必要になったものは、ほとんど自分たちで作りました。作らざるを得なかった、というほうが正確です。
このページは「こんなに売れました」という自慢話ではありません。世界に売るために何が必要で、それぞれをどう作ったかの記録です。同じ壁の前に立っている作り手の方にとって、地図の代わりになればと思っています。
出発点:良いものがある、それだけだった
忍び返しは、日本の家屋の塀の上に置かれてきた防犯金物です。私たちはこれを Ninja Deterrent™ というブランドで海外に出すことにしました。
海外の顧客にとって、これは「防犯設備」であると同時に「見たことのない意匠」です。売り方が決まっていない製品でした。手元にあったのは、良い製品と、それを作れる製造の現場だけ。販路も、ブランドも、売り場も、何もありませんでした。
1. 最初に作ったのは、サイトではなく商標だった
2024年2月、マドリッド協定議定書に基づく国際商標登録出願を行いました。個人事業として創業する2ヶ月前のことです。
順序としては地味です。売る前に、まだ1つも売れていないブランドの名前を各国で押さえに行く。しかし越境で最も取り返しがつかないのは、名前を他人に先に取られることです。模倣品が出てから商標を取ろうとしても、その国では自分が後発になります。
日本の作り手が海外展開でつまずく点として、私たちはこれを最初に挙げます。サイトを作る前に、名前を守ってください。
2. 言語:翻訳ではなく、9言語で「別々に」持つ
Ninja Deterrent™ のサイトは現在、9つの言語で動いています。
英語・日本語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語・韓国語・簡体字中国語・繁体字中国語。
ポイントは繁体字を簡体字と分けて持っていることです。香港・台湾の読者に簡体字を出すのは、それだけで「自分たち向けではない」という信号になります。手間は増えますが、分けました。
技術的にも、単にテキストを差し替えるのではなく、検索エンジンに対して各言語版の関係を正しく宣言する必要があります(hreflang、構造化データ)。この設計を誤ると、9言語作っても検索結果には1つしか出てきません。
3. 触れないものを、触れるようにする
海外の顧客は現物を見られません。写真だけでは、金物の質感も、塀の上に載せたときの見え方も伝わりません。
そこで自社ブランドのECサイトに、3Dとその場でのAR表示を実装しました。
- 全商品ページに model-viewer による3Dビューアを実装
- カラーバリエーションごとに個別の3Dモデル(GLB)を用意
- iOS の AR 表示(Quick Look)から、そのまま購入まで進める導線
これが後に Orbital 3D という私たちのもう一つの事業になりました。受託のために作った技術ではなく、自分の商品を売るために必要だったから作った技術です。
4. 売り場を、世界の側に置く
自社サイトを作っただけでは、誰も来ません。
- Google ショッピング用の商品フィードを、米国向けと各言語向けに複数本整備
- 米国向けの検索広告を実際に配信し、どの語で人が来るかを見る
- 通貨・送料・関税の扱いを、現地の顧客が迷わない形に整える
海外の顧客が「日本から買う」と決めるまでに引っかかる箇所は、価格ではなく不透明さであることが多い。総額がいくらになるのか最後までわからない買い物は、途中で止まります。
5. 測る仕組みを、最初から入れておく
売れなかったときに「なぜ売れないか」がわからないのが、越境で最もつらい状態です。
- GA4 と Clarity で、カート投入から決済までのどこで離脱したかを追う
- 生成AIに自社ブランドがどう説明されているかを定期的に取得し、記録する(AI時代のエゴサーチ)
最後の項目は、まだあまり一般的ではないと思います。今の海外顧客は、検索エンジンだけでなく生成AIに「これは何なのか」を尋ねます。そこで自社製品がどう語られているかは、放置すると誰かが勝手に決めてしまいます。
6. 今、私たちがいる場所
正直に書きます。
ここまでの仕組みは動いています。9言語のサイトも、3D/ARも、広告も、計測も、日々稼働しています。一方で、「これだけ売れました」と誇れる販売実績を出す段階には、まだ到達していません。今は仕組みを組み終え、市場の反応を測り、どこを直すべきかを見つけている最中です。
この状態を隠して事例を書くこともできました。しかし私たちが信用してほしいのは「売れた実績」ではなく、世界に売るために何が必要かを、全部自分の手で作って把握しているという事実のほうです。
作った当事者にしか見えない落とし穴があります。私たちはそれを一通り踏んできました。
一緒に世界に出しませんか
才谷屋は、Webサイトを作って納品する会社ではありません。
日本の作り手が世界に売るために必要なもの――ブランドを守る、言葉を用意する、触れるようにする、売り場を置く、測る――を、自社の製品で一通り作って運用しています。同じことを、あなたの製品でやります。
制作費をいただいて終わりではなく、一緒に売って、成果を分け合う形でご一緒したいと考えています。物語のある、良いものを作っている方からのご相談をお待ちしています。